コミュ障の冴えない文学青年の心温まる恋物語
第一章:運命の出会い
2024年、東京。
文学青年・佐藤樹はこの日、23歳を迎えた。
彼は大学卒業後、就職活動に失敗し、アルバイトと執筆活動で日々を過ごしていた。
樹は人付き合いが苦手で、恋愛経験もゼロ。
唯一の親友は、叔父の家で飼われている猫の『サリンジャー』という名のキジトラだった。
樹は、現在事情があって、叔父の家に居候させてもらっている状況だ。
叔父は、とても優しくて樹と同様に文学好きで、自宅の1階にある喫茶店を経営している。
ある日、樹はいつものように叔父が経営する喫茶店で読書に耽っていた。
ふと目を上げると、一人の女性が読書していることに気づいた。
その女性は、樹の理想とするタイプそのものだった。
黒い艶やかな髪の毛に、意志の強そうな漆黒の瞳。
女性は、人を寄せ付けないオーラを放っており、とてもミステリアスな雰囲気だった。
樹は心惹かれたが、極度のコミュ障なため、自ら声を掛けるなど到底できっこなかった。
そんな時、サリンジャーが女性の膝に飛び乗った。
「わぁ!ビックリした~」
女性は驚きながらも、サリンジャーを優しく撫で始めた。
樹は勇気を振り絞り、サリンジャーをきっかけに女性に話しかける。
「サ、サリンジャー。ダメじゃないか。お客さんの膝の上に飛び乗っては」
「大丈夫ですよ。私、猫大好きなので!」
女性の名前は藤田マリ。
彼女は樹と同じく読書好きで、樹とすぐに意気投合する。
しかし、樹の極度のコミュ障は、マリとの距離を縮める壁となった。
「佐藤さんは、お住まいはどちらですか?」
「あ、えっと…。僕は、事情があってこの喫茶店のオーナーである叔父の家に住まわせてもらっていて…。上の階に住んでいます」
「そうなんですね!喫茶店があるおうちに住んでいるなんて、素敵!」
樹は、ばつが悪かった。
というのも、叔父の家に居候させてもらっている理由が前住んでいたアパートの家賃を滞納し、追い出されたからなんて、言えやしない。
「あ、あの!良かったら、さっきマリさんが読みたいて言っていた本、貸しますので、持ってきますね」
「あ、でも…。私、今度いつこの喫茶店に来れるか分からなくて…。お返しできる日がいつになるか…」
「いつでも大丈夫です!持ってきますね」
樹は、半ば強引にマリに本を貸した。
マリは少し困ったような表情をしているように見えた。
その日の夜。
樹は、サリンジャーに弱音を吐いた。
「サリンジャー。今日の僕は少し強引すぎたかな…。マリさん、少し困ったような表情をしていたような…」
「んにゃー」
落ち込む樹を、サリンジャーはそばで励まし続けた。
第二章:サリンジャーの奮闘
マリと出会ってから一か月後。
樹はマリに想いを伝えようと決意する。
しかし、いざとなると言葉に詰まってしまう。
そんな時、サリンジャーが樹の手にすり寄り、彼の緊張を解きほぐそうとした。
そして、ついに樹はマリに告白する。
「マリさん、好きです。付き合ってください!」
マリは最初こそ驚いていたが、樹の真っ直ぐな想いに心を打たれ、告白を受け入れてくれた。
しかし、二人はまだぎこちない関係だった。サリンジャーは、二人の距離を縮めるために奮闘する。
ある日、サリンジャーはマリのリュックの中に忍び込み、外に飛び出した。
慌ててサリンジャーを追いかけるマリ。
樹もマリとサリンジャーの後を追う。
「サリンジャー!」
樹が名前を呼ぶと、サリンジャーは足を止め、公園の隅に座った。
先に行っていたマリが瞬時にサリンジャーを抱き上げた。
「もう、サリンジャー!ビックリさせないで」
マリは泣きそうになっていた。
第三章:二人の行く末
樹とマリは、サリンジャーの助けもあり、徐々に距離を縮めていく。
しかし、樹のコミュ障は依然として克服できていなかった。
ある日、マリは樹に言った。
「樹さん、もっと自分の気持ちを言葉にしてほしい。私もっと樹さんを知りたい」
樹はマリの言葉に深く考え込む。そして、決意を固める。
次の日、樹はマリをいつもの喫茶店に呼び出した。そして、サリンジャーを手に、マリに語り始めた。
「マリさん、僕は不器用で、言葉に詰まってしまうことがあります。でも、本当にマリさんのことが好きです。マリさんと一緒にいたい。だから、次の文学賞で大賞を取ることができたら、僕と結婚してください。」
樹の真っ直ぐな言葉に、マリは涙を流した。
そして、「私も樹さんのことが好きです。結婚しましょう」と答えた。
二人はサリンジャーを見つめ、感謝の気持ちを伝えた。サリンジャーは、二人の幸せを祝福するかのように、喉を鳴らした。
樹は、何回も落ちていた文学賞の最終選考まで残っていた。
プロポーズをしてから一週間後。出版社から受賞を知らせる電話が鳴る。
樹は、人生で初めて文学賞を受賞した。
受賞後、居ても立っても居られず、すぐにマリに電話をした。
マリは、泣いて喜んでくれた。
エピローグ
一年後、樹とマリは結婚し、二年後に一児をもうけた。
樹とマリは、久々に叔父の喫茶店へ行くと、サリンジャーがカウンターの上で居眠りをしていた。
樹は、サリンジャーに語りかけた。
「サリンジャー、ありがとう。君は僕の人生を変えてくれた」
サリンジャーは、樹の手にすり寄り、喉を鳴らした。
樹はサリンジャーを抱きしめ、感謝の気持ちを伝えた。
樹とマリ、そしてサリンジャーの物語は、これからも温かく続いていく。