第一章:硝煙と絶望
ルミナス国。1年前から隣国との戦争が泥沼化し、兵士たちは絶望の淵に立たされていた。主人公・ジェドもその一人だ。
30歳という若さで妻と2歳になる子供を持つ彼は、最前線で日々命の危険に晒されていた。
ジェドは、毎晩家族の写真を握りしめながら、彼らの安否を案じていた。しかし、戦場からの脱走は許されない。彼の心は、深い絶望と孤独に覆われていた。
そんなある日、いつものように仲間と共に塹壕で夜の見張りをしていたジェドの元に、一匹の黒猫が現れた。痩せ細った黒猫は、怯えた様子でジェドを見つめていた。
「ニャア…」
「なんだ、お前。どこから来た?」
ジェドは薄汚れた猫に向かって言った。猫は何も答えず、警戒心満載の目でジェドを見た。
「お前、こんな戦場でなんで一匹だけでいるんだ?危ないぞ。ほら、どっか行け!」
ジェドは手で追い払う素振りをした。しかし、その黒猫はその場を離れることなく、ジェドの目を見つめていた。
ジェドは、自身が明日死ぬかもしれないという極限の状態にも関わらず、その黒猫を無下に扱うことができなかった。その猫を見ると、どうしても過去の記憶が蘇ってしまうのだ。
「ったく、仕方ねぇな」
ジェドは、その猫に自分が齧っていたパンを少しだけ分けてやった。猫は警戒しながらも、そのパンをあっという間に食べてしまった。
第二章:小さな命との出会い
黒猫は、その後も度々ジェドたちの潜伏場所に現れるようになった。
「なんだこの猫?懐かれちゃったのか?」
戦友のサーシャがガムを噛みながら黒猫を撫でる。
「あぁ、この前パンのかけらをやったら、味を占めたみたいだな」
「お前が猫に餌付けするなんて、意外だな。名前は付けたのかよ?」
「いや、つけてない。つける必要なんてない。変に愛着湧いても困るしな」
「確かに」
ジェドたちは、乏しい食料を分け与えながら、黒猫の命をつないでいく。ジェドは、黒猫の澄んだ瞳の中に、戦場では決して見ることができない無垢な光を見出していた。
ある日、サーシャが敵兵の奇襲を受け、命の危険にさらされる。ジェドはサーシャを救おうと必死に戦うが、敵兵の数は圧倒的だった。絶望的な状況の中、ジェドはサーシャを見失ってしまう。
すると、黒猫がジェドの前に現れた。黒猫は何かを伝えようとしているようだったが、ジェドには理解できない。しかし、黒猫の必死な様子に、ジェドは黒猫の導きに従うことを決意する。
第三章:奇跡の救出劇
ジェドが黒猫に導かれた場所には、捕虜となったサーシャがいた。サーシャは、敵兵の目を盗んでジェドにメッセージを伝える。
「北側の洞窟に武器が隠されている。それを手に入れてくれれば、脱出できるかもしれない」
ジェドは、黒猫と共に敵陣へと潜入する。黒猫はジェドが行きたい場所がどこなのか知っているかのように、先にどんどん歩みを進めていく。
黒猫が到着した先は、サーシャが言っていた北側の洞窟だった。
「おい、黒猫。お前はなんで俺が行きたいところが分かるんだ」
黒猫はジェドの方を見て、ゆっくりと瞬きをした。その瞬きを見たジェドは、過去の記憶が蘇り、今にも涙が出そうになった。
「ありがとう、アン」
ジェドは、黒猫のおかげで武器を無事手に入れることに成功する。そして、仲間たちの協力もあり、サーシャを救出することができた。
第四章:再会と絆
サーシャを救出してからまもなく、上官から休戦協定が結ばれたと聞かされる。
戦場を生き延びたジェドとサーシャは、再びルミナスの地に帰還する。もちろん、黒猫も一緒に連れて。
そこでジェドを待っていたのは、妻のミリアンと2歳の息子・ジェロニーだった。
「ジェド、無事に帰って来てくれてよかった。本当によかった…」
妻は何度もそう言って、涙した。
家族との再会を喜び、ジェドは戦争の悲惨さを改めて実感する。
「ニャーーー」
「ジェド!リュックの中から猫の鳴き声が…」
「あぁ、そうだった」
ジェドは、感動の再会を噛み締めながら、リュックから黒猫を取り出す。すると、妻が驚きを隠せない様子で声を上げる。
「え?アン?でも、アンは…」
「ミリアン、この黒猫は俺達の救世主だ。この黒猫を見て、俺もアンにそっくりでビックリした」
アンとは、数年前までジェドとミリアンが飼っていた猫の名前だ。アンは、戦争が始まる前に病気で亡くなってしまった猫だった。ジェドは戦場で黒猫が現れた時、アンの生まれ変わりだと思ったくらい似ていた。
黒猫はジェドの家族にもすぐに受け入れられ、温かい家庭の一員となった。
ジェドは妻のミリアンと息子のジェロニー、そして二代目のアンと共に、新しい生活を歩み始めた。
二代目のアンは、きっと死んだアンの生まれ変わりだと、今も信じて疑わない。
「ありがとう、アン。君は僕の人生に、希望と光を与えてくれた」
二代目アンは、戦場にいた時よりも少しだけぽっちゃりした体で、ジェドの膝の上でゴロゴロ言いながら安心しきった表情で眠ったのだった。